「働く」の定義を変えるためのブックシェルフ くつろぎ、語り合い、「笑顔」が交わる環境を支える本たち

「富士フイルム」と聞けば、多くの人はその名の通り「写真」を思い浮かべるかも知れません。しかし現在の富士フイルムグループの事業収益において、写真も含むイメージング事業が占めるのは約16%です。イメージングだけでなくビジネスイノベーション、ヘルスケア、そしてエレクトロニクスの4部門で、「地球上の笑顔の回数を増やしていく。」をグループパーパスとした幅広い事業が展開されています。
2007 年の東京ミッドタウン(赤坂)オープンと同時に本社移転されたオフィスでも、「笑顔の回数」を増やすためのワークスタイル・イノベーションが進められています。その一環として、オフィス4階にある全社員共有スペース「HITOIKI CAFE」の内装デザインが一新されることとなり、「カフェスペースをブックシェルフで緩やかに仕切る」というアイデアの実現のために、青山ブックセンターが選書を担当することとなりました。
本たちに期待されているのは、読まれることはもちろんのこと、見て感じてもらうことで発想力が刺激され、ときに部署を超えたコミュニケーションが生まれるきっかけとなることです。いわば「生きたインテリア」としてのブックシェルフはどのように発想され、実現したのでしょうか。
富士フイルムグループのシェアードサービス会社として、ファシリティの設計・運営や業務プロセス改善を担う富士フイルムビジネスエキスパート株式会社 総務サービス部 総務マネジメントセンターの皆様に、導入の経緯や今後の展望についてお話をうかがいました。

総務マネジメントセンター ファシリティマネジメントグループ
野澤龍様

総務マネジメントセンター 総務サービスグループ
馮詠美様

総務マネジメントセンター 総務サービスグループ
隈元愛子様

総務マネジメントセンター 総務サービスグループ
久城祐樹様
「笑顔を増やす」ワークスタイルへ
―ワークスタイル・イノベーションの一環として選書サービスのご依頼をいただきましたが、このプロジェクトはいつ頃から始められたのでしょうか?
野澤様:
始まったのは2014年で、当初はファイルの共有や、社員が使うPCをデスクトップ型からノートパソコンに切り替えるといったところから着手しています。
オフィス環境やファシリティの改革が始まったのは2022年です。ABW(アクティビティ・ベースド・ワーキング:業務内容や段階、個々人のニーズに合った場所や環境を自由に選択できる働き方)も段階的に導入されました。カフェや同じフロアのレストランは2025年5月にリニューアルされましたが、これらは「ワクワクする」「交わる」「動く」をキーワードにしたオフィス作りのシンボルとなっています。
―社内環境改革もグループパーパスと強く呼応したプロジェクトなのでしょうか。
野澤様:
もちろんです。「地球上の笑顔の回数を増やしていく。」というパーパスは2024年1月に策定されましたが、4F のリニューアル時にはすでに社内に浸透していました。「笑顔」を増やしていくためにはイノベーションを起こし続けることが必要ですし、イノベーションは自分の知識やアイデアだけでは起こらない、同じメンバーとだけ接していても起こらないという認識がありました。
知識やアイデアのインプットが、環境からももたらされるようなオフィスを目指していたところで、オフィスのデザインを担当されたコクヨさんから選書サービス導入のご提案もあり、私もぜひ実現したいと思ったんです。とはいえ、最初から私たち全員が乗り気だったわけではなく、アイデアを何度も話し合い、少しずつ仲間を増やしていきました。
馮様:
もともとオフィスに書棚はありまして、業務や人材開発などに関わる書籍が並んでいたのですが、がっつり「関連書」という内容で趣味や遊びの要素はなく、読まれた様子もありませんでした。
これは働き方に関わることでもありますが、会社は「仕事をする場所」だけではなくて、休憩もリフレッシュもしていい場ですし、そうしないとイノベーションなんて生まれないですよね。
青山ブックセンターさんの選書が「休憩してもいいんだよ」というメッセージに、意識付けにつながったのではないかと感じています。
隈元様:
私は野澤からコンセプトを聞かされた時は、疑問でいっぱいでした。私自身が日常的に本をたくさん読む人間ではなかったこともありますが、選書サービスを導入してカフェに本が並んでも、読まれずに終わってしまうのではないかな、と。導入が決まって青山ブックセンターさんとのディスカッションが始まった当初も、私個人の疑問は解消されていませんでした。不安が顔に出ていたと思います(笑)。
本との「距離」を縮めるために
―ご懸念はよくわかる気がします 。納品された本が、得てしてただの装飾になってしまうことは、弊社に限らず選書サービスにとっての最大の課題だと感じています。
隈元様:
ただ、実際にご提案された選書の内容や、他社さんへのサービス展開事例などもお教えいただいて、少しずつ前向きな気持ちになりました。社内から本のリクエストを募った事例や、貸出サービスをコミュニケーションの起点とされているケースなどを知ることができて、当社でも本を媒介にした双方向のコミュニケーションが生まれる可能性があることがよく理解できました。
私たちも貸出サービスを始めることにしましたし、それだけでなくもっと従業員に読んでもらうためのアイデアを練っているところです。
馮様:
貸出は 25 年 10 月から始めました。まずは従業員の利用率を上げていくことを目標にしています。本の紛失を防ぐために在庫管理システムを入れたり、カメラを付けることまで検討したのですが、これも青山ブックセンターさんが「初めは緩やかにしたほうがいいと思います」とおっしゃってくださったので、ノートに名前と返却予定日を書いてもらうだけにしました。気が向いたら感想も一言書いてもらうという、アナログなやり方です。
隈元様:
ガチガチに管理すると、かえって本との距離が生まれてしまって、貸出が逆効果になってしまいかねませんから。
野澤様:
つい管理を先に考えてしまうのは、我々の悪い癖なのかも知れないね(笑)。
―デジタルサイネージで新入荷書籍の紹介をするというのも、素晴らしいアイデアですね。

野澤様:
サイネージやPOPのコメントも青山ブックセンターさんからいただきましたが、これも本と従業員との距離を縮めるための工夫でした。
久城様:
そもそも、ここに並んでいる本を「読んでいい」と認識している人がまだ多くないかも知れません。総務の中でも「あれ、読んでよかったんだ?」と言われることがありますから。
隈元様:
このカフェにはポータルサイトもあるのですが、そこでも蔵書リストやサイネージを閲覧できるようにしています。ここにももっと仕掛けが必要かなと感じています。
―私たちも定期的に納品させていただく際に、いろいろな仕掛けをご提案できればと思います。
野澤様:
ありがとうございます。私は学生時代から青山ブックセンターに足繁く通っていましたので、選書サービス導入を考えた当初からお店の雰囲気をオフィス内で再現したいと思っていましたが、内規があり複数社の競争入札とさせていただきました。
それでも、納品以降のサポートまで詳細にご提案いただいたことが決め手となり、青山ブックセンターさんに選書をお願いできて本当に嬉しく思っています。経験豊富な書店員さんに選書していただいているという点も、しっかりと伝わってきました。
久城様:
ご提案をいただいた時点では、我々のニーズは漠然としていたのですが、ヒアリングを重ねて上手にニーズを引き出していただき、ニーズに沿った伴走をしてくださっていると感じますね。
野澤様:
グループパーパスに沿ったテーマの本や、「イメージング」「ヘルスケア」といった事業領域に沿った本を選んでいただいたのですが、テーマにストレートに沿っただけでは「参考書籍」「お勉強」という雰囲気になってしまうので、狙いとは違うものになってしまいます。
テーマを広げたり、違う角度から光を当てるような選書方針を、我々から言葉にして伝えることはとても難しいのですが、期待以上の選書でバッチリ返してくださったことが何よりも嬉しかったですね。
交わらないと始まらない!
―ABW 導入から 3 年目とのことですが、すっかり浸透されたのでしょうか?
久城様:
まだ道半ばです。このフロアは人が交わる場所としてさまざまな仕掛けを行っているのですが、長年の社風もあり、ここで本を読んでいると「怠けていると思われそう」という不安になる人はまだ多いかも知れません。集中ブースもあり、仮眠ができるリクライニングもありという造りなのですが、実際に仮眠する人はそれほど多くない。本も含めた仕掛けをもっとやって、「働く」のイメージを変えたいですね。

隈元様:
でも久城さんはフリーアドレス化に反対していませんでした?
久城様:
心の中ではね。
隈元様:
表面的にも反対でしたよ(笑)。「俺は絶対に固定席に座るぞ」って言っていました。
野澤様:
でも今は誰よりも楽しんでいる(笑)。
久城様:
最高ですね(笑)。私はもうすぐ 64 歳になりますけど、服装のカジュアル化も含めて「長年染み付いたものを簡単に変えられるわけがない」と思っていましたが、今はすべてが快適です。
馮様:
私は入社時にはすでに ABW だったので、むしろ固定席は考えられない、ありえないという感じです(笑)。場所を選んで仕事をして、ちょっとカフェで休憩しながら本をめくったりしていると、クリエイティブな仕事ができる気がしています。
野澤様:
4F を不定期にバーにして、従業員に集まってもらう試みも始めました。
久城様:
定期化したいけど、まだそこまでは至っていないんだよね。
野澤様:
まだ参加者もそれほど多くはないですしね。先日はサントリーさんと「適正飲酒」をテーマにしたセミナーを開催して、これはとても好評でした。
馮様:
あれはすごく良かったですね。
隈元様:
私たち事務局側も「交わる」をテーマに据えていて、サントリーさんもいろいろなコンテンツがある中でテーマにフィットするものを選んでくださいました。異なる部署の方々がなるべく相席になるようにセッティングしましたが、アンケートでは「グループ参加者も完全にバラけて座るほうがいいのでは」という意見もありました。社員の間でも異部署間交流のニーズは高まっているのかも知れません。
野澤様:
パーパスを実現するには「交わらないと始まらない」と思っていますので、本に関わるイベントもどんどん開催して、もっと「交わる」を実現したいですね。これから定期納入していただく新刊書も含めて、本たちはその起爆剤になると感じています。
隈元様:
「交わらないと始まらない」は、もうそのままキャッチコピーですね。次のイベントのテーマにしませんか(笑)?
―本を媒介にしたイベントについては、私たちもぜひご提案できればと思います。どんどんとアイデアが生まれていることが窺えて、非常に嬉しく思いました。お時間をいただきありがとうございました。
■企業様データ
富士フイルム株式会社
本社所在地:東京都港区赤坂9-7-3
ホームぺージ: https://www.fujifilm.com/jp/ja