知のバトン継承と、コミュニケーション増大の場として ライブラリー導入の効果と広がる構想

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日本近代を代表する名建築の一つとして親しまれた東京駅丸の内口の東京中央郵便局は、2013年に局舎を一部保存した「JPタワー」として生まれ変わりました。ビジネスや学術研究の場としてだけでなく、伝統と流行を融合させたラインナップを誇る商業施設「KITTE」の人気もあいまって、東京の新しいランドマークとして定着しています。

2022年に浜松町からJPタワーに本社を移された兼松株式会社様は、移転を機にオフィスのあり方を刷新し、その一環として約1,000冊の蔵書を生かしたライブラリーを設置されました。選書依頼を受けた青山ブックセンター・ブックコンサルティングサービスは、蔵書と響き合うさまざまなジャンルの1,173冊を選定いたしました。

ワークプレイス創造とライブラリー設置にはどのような思いが込められていたのでしょうか。また、環境変化はどのようなシナジーをもたらすのでしょうか。移転プロジェクトをご担当された総務部の梶内様と田中様に、その経緯や狙いについてお話を伺いました。


kajiuchi
総務部総務課長
梶内尚史様
tanaka
総務部総務課
田中健介様

30年後の最先端を目指して―ライブラリー導入の理由


―本社移転を契機にオフィスのあり方を見直された背景には、どのような理由があったのでしょうか。

田中様:
弊社にとっては約30年ぶりの移転だったのですが、それを機にオフィス移転プロジェクトではこの先の30年を見据えた、11のゴールを設定しました。ゴールの1つを達成するための手段と位置付けられたのが、働き方を変えることでした。ABW(Activity Based Working:従業員自身が業務内容に応じた場所を選ぶ働き方。社内だけではなく自宅やカフェも選択可能)の導入もそうですし、ワークプレイスの中心にカフェを作ったこともゴール到達のための手段で、ライブラリーもその一環でした。

30年後も最先端の企業であるためには、先端の知や思考を学び続ける必要があります。同時に、弊社には創業者の兼松房治郎が1889年に神戸で興した「豪州貿易兼松房治郎商店」から、130年を超える歴史があり、それを継承していくための場としてもライブラリーを位置付けています。房治郎は44歳で、日本人にとってまったく未開拓事業であったオーストラリアとの貿易に乗り出しています。その創業精神は新しい挑戦を歓迎する社風に結実していますが、当時の資料や社史、社内報等はそれを継承するだけではなく、より強めてくれるツールでもあると考えています。


―ワークプレイスを拝見している間にも、集中ブースや円卓などさまざまな席で思い思いの働き方をされている社員の皆さまが、気分転換にライブラリーの本を手に取られたり、統計資料を参照される姿を見かけました。日常的にご利用いただいている様子で、非常に嬉しく感じました。

田中様:
本好きの社員も多く、「本選びのセンスいいよね!」とよく言われます。「そうなんです。僕が選びましたから」とジョークで答えたりしますが、もちろん後からちゃんと訂正しています(笑)。
我々が求めていたライブラリーの姿を実現するだけでなく、こちらの思いを拡張してくれる意外性をあちこちに感じます。単に面白い本、変わった本を並べるのではなく、候補をふるいにかけられた上で選書されていることが伝わってきますね。ABW導入を検討している企業の方もよく見学にいらっしゃるのですが、「ここの本はどなたが選んだのですか?」とかなり聞かれますね。


―社員の皆様が本好きでいらっしゃるのは、私たちとしても本当にありがたく、同時に身が引き締まる思いもいたします。

田中様:
社内からはいろいろな反響が返ってきています。エネルギー部の課長が、選書していただいた『エネルギーをめぐる旅』(古舘恒介著、英治出版)を部内で輪読していると聞いています。
また、人事部が「心理的安全性を担保したコミュニケーション」という研修を開催する際に、納品までの時間も短い中で青山ブックセンターさんに何冊かトピックにあった選書をお願いしましたが、納入していただいた本は研修後も引き続きよく読まれています。 さらに、私も詳しくは知らないのですが、社内で「読書部」を立ち上げようという人たちもいて、署名活動をしていると聞きました。

梶内様:
おおっ? そんな動きがあるのか!

田中様:
本を通じたコミュニティが生まれたらと願っていたので、設置から4か月足らずでこういう動きが出てくるのは嬉しいですね。


―想像以上の活況で、私たちとしても嬉しい限りです。本はライブラリーや社内で読むだけでなく、貸出サービスもされているのでしょうか?

梶内様:
弊社の在庫管理サービスを活用して貸出管理をしているんです。

田中様:
「KG ZAICO」https://bc3.kanematsu.co.jp/kgzaico)という、紙やExcelで行っていた在庫管理業務のデジタルトランスフォーメーション(DX)を実現することを目的とした在庫管理システムを利用しています。

梶内様:
弊社はDXへの取り組みも積極的に進めていまして、貸出システムもそうですし、カフェの受注も弊社のシステム「FewTap」https://bc3.kanematsu.co.jp/fewtap)で運用しています。このワークプレイスは間仕切りや一部の机などに弊社取り扱い商品を活用していまして、働く場であると同時にシステムからプロダクトまでをご紹介するショールームの機能を併せ持っています。おかげさまでライブラリー管理についても、よくお問い合わせをいただきますね。


コミュニケーションを活性化させるライブラリー

―選書にあたっていただいた大きなテーマが「知識のバトンを受け渡しする場にしたい」というものでした。

梶内様:
創業以来受け継がれてきた開拓者精神は、今でも社内にしっかりと息づいていまして、採用段階でも新しいことをやってくれそうな人を選抜する傾向にあります。房治郎が掲げた「いま一粒の種をまく」という理念の通り、自ら種を蒔いて「ゼロから1を作る」ことを良しとする気風は健在です。ただ、創業理念が常に省みられているかというと、そうとも言い切れないというのが正直なところで、ライブラリー導入に際して経営層から求められたのは、創業理念への立ち返りでした。

田中様:
経営層からは、「兼松や日本の歴史だけではなく、取引のある海外諸国の文化や歴史を学べる場であってほしい」、「業務に必要な運輸や法務、技術分野などの専門知識が得られる場にしてほしい」、「美術や芸術など業務に直接つながらないジャンルの本から自由に発想し、インスピレーションを得られる場であってほしい」といったリクエストがありました。まだ実現できてはいませんが、経営層からの推薦図書も置いて、本を通じたコミュニケーションの増大を図ることも構想しています。

梶内様:
事業分野を拡大していくなかで、運輸保険から航空力学まで、多分野のかなり専門的な本や資料も収蔵してきました。それらの「バトン」をどうやって先端分野にリンクさせるかも課題でした。

田中様:
弊社の航空宇宙部では「空飛ぶ車」の開発もしておりまして、ICTを活用して自動車以外の交通手段をシームレスに連携させる「MaaS(マース:Mobility as a Service)」と呼ばれる取り組みにも力を入れています。選書のなかに『空飛ぶクルマ 電動航空機がもたらすMaaS革命』(根津禎著、日経BP)という本を見つけて、弊社にとっての先端領域を把握されていることに驚きました。多様なジャンルだけでなく、一冊一冊からもライブラリー設置の意図に応えてくださったことが伝わってきました。

梶内様:
本は「読む」だけではなく、「選ぶ」ことで表現できることがあるんだと改めて感じましたね。新任役員のおすすめ本をここに陳列すればいいかも知れないですね。

田中様:
たしかに、新任挨拶のなかで選んだ一冊についても触れてもらえば人柄も、その人がどういう未来を描いているかも伝わりますね。

梶内様:
それが自然でいいかも知れないね。


―ライブラリーを通じた知の継承やコミュニケーション向上について、どんどんとアイデアが湧き出ていらっしゃることが伝わってまいりました。本日はお時間をいただきありがとうございました。

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ワークプレイス改革の経緯

JPタワーへの移転が決まった2019年10月から、社内で「30年後の未来」を見据えた新しい働き方が繰り返し議論され、「優れた企業文化・らしさの継承による兼松ブランドの協調」「従業員満足度の向上」など、11のゴールが設定されたとのことです。ABWを軸にしたワークプレイス刷新は「縦割り文化を打破し、部門を超えた付加価値を生み出す」を目指した取り組みのひとつで、移転後はすべての従業員がABWで勤務され、「とくにカフェは人気で毎朝社員が並んでいます」(梶内様)、「在宅勤務よりも、会社のほうが居心地がよいという人も多いです。」(田中様)と、新しいワークプレイスは着実に当初の目標を達成しつつあるようです。

ライブラリーに望むもの

ワークプレイスに溶け込むように設置されたライブラリーには、「知識のバトンを受け取る空間」としての役割が求められました。
具体的には「創業以来の歴史を伝え、企業文化を育む」「取引のある海外の歴史や文化への理解を深める」「専門書から高度なインプットを得られる」「固定概念にとらわれないインスピレーションを生み出す」といったご要望をいただきました。
青山ブックセンターは兼松様のご蔵書や、社史や社内報、各種統計などの貴重な資料に多面的な光を当てたいと考え、歴史、文化、芸術、科学、ビジネスなど多ジャンルの書籍1,173冊をご提案し、納入・陳列いたしました。
ご蔵書の活用は「経営層と従業員との本を通じたコミュニケーションの場にしたい」というご要望にお応えしたものでしたが、インタビュー中にもあったように、「選書」という行為を通じたさらなるコミュニケーション活性化もご構想されていました。



■企業様データ

兼松株式会社
本社所在地:東京都千代田区丸の内2-7-2 JPタワー16階・17階
本社従業員数:約700名
ホームぺージ:  https://www.kanematsu.co.jp/