リンダ スコット『性差別の損失』
翻訳者:月谷真紀
出版社:柏書房
男女賃金格差、ジェンダー平等、少子化など、今話題のテーマ、緊急に解決しなければならない問題、それらの本当の原因とは何か。小手先の政策だけを振り回す政治の問題も含めて、根本的に解決したいのなら、その真の原因に対処しなければならないことが明確にわかる。そう、男性には耳が痛いが、片方の性がすべてを牛耳ってきたため、女性が不利な立場に置かれているのだ。既得権も含めて、女性に権利を渡そうとしない男性側の問題が大きく影響している。しかも女性でさえも男性に依存する権利を主張し、これらの問題解決に抵抗さえしているのだ。はたしてフェミニズムはあらゆる女性の価値観を包含できているのだろうか。そして、家父長制のことを甘く見すぎていないだろうか。
本書はこうした問題について世界規模で実地に体験、研究してきた著者により真の原因を明らかにし、それによる巨額の損失が起きている事実をデータを基に突きつける。
●女性に高等教育を受けさせないことで、世界経済は30兆ドルの損失を被る
●地球上の耕作可能地の80%は男性が所有し、富の独占を行っている
●男女の賃金格差は市場が偶然にもたらしたものではなく、1970年代に子どもを持つ母を家庭に留めようとした保守的な社会政策に起因する(イギリスの平等賃金法など)
●子どもをもうけると平均して10年にわたり収入が40%ダウンする(働くアメリカの母親、母親ペナルティ)
●イギリスには1年間の有給休暇があるが、出産から10年後に40%の減給となる(イギリス)
●長期の産休制度があっても、伝統的に子どもは家庭で育てるものだと考え、子どもを預ける施設を作らないから、それを利用できず、「ヨーロッパの老人ホーム」「子どものいない国」となった(ドイツ)
●育児支援政策があるデンマークとスウェーデンでも、出産から10年後に給料が約21%と27%下がっている(デンマークとスウェーデン)
●なぜ長期の育休は女性に不利益になりかねないか?(昇進させない)
●なぜ男女平等を推進する政策はまったく役に立たないのか?
●「男性の連帯」がいかに根強いか(採用、育成、人事管理、昇進、給与慣行に関して)
女性を経済的に包摂するのを阻む壁は仕事や給与にとどまらず、財産所有権、資本、信用貸し、市場にもそそり立っている。こうした経済的な障壁が、通常は女性に課せられた文化的な制約(移動の制限、産む性としての弱い立場、常にさらされている暴力の脅威)と結びついて、女性特有のシャドウ・エコノミーを作り出している。それを著者はダブルXエコノミーと呼んでいる。これは発展途上国だけの問題ではなく、先進的と思われているアメリカ、ドイツなどでも状況は変わらない。世界的な規模で男女差別が起こっており、それゆえその損失は莫大なものとなっている。地球上から貧困をなくすにはどうすればよいのか。現地に学校や設備を作るだけではだめで、それを活かすための文化的フォローが必要になる。この文化的問題こそが男性中心の価値判断に基づくものであり、一方的に壊すのではなく、意識を変えるべく、男女ともに問題点を理解しつつ、この巨大な壁に立ち向かう必要があることを明らかにしていく。(出版社より)