頭木弘樹『食べることと出すこと』
出版社: 医学書院 「飢えから、栄養不足による飢えを引いたもの」を体験した人はあまりいない。 点滴によって栄養は足りているのに、「喉」は何かを飲み込みたいと言い、「顎」は犬のように骨の形をしたガムを噛みたいと叫び、「舌」はとにかく味のするものを! と懇願してくるのだと著者はいう。 こうして、食べて出すことがうまくできないと、日常は経験したことのない戦いの場となる。 絶食後に始めて口に入れたヨーグルトが爆発するとは? 茫然と便の海に立っているときに看護師から雑巾を手渡されたときの気分は? 便が心配でひきこもり生活が続いた後、外を歩くと風景が後ろに流れていくとは? 食べて出すだけの日常とは、何かを為すためのスタート地点ではなく、偉大な成果であることが心底わかる傑作。 切実さの狭間に漂う不思議なユーモアが、何が「ケア」なのかを教えてくれる。