『OUT OF SIGHT!!! Vol.3「地域と芸術祭、あの前後 (別冊 台湾編)」』
隣人の顔を思い浮かべる時、その輪郭は案外とボヤケている
台湾に移住して、一年と少しが経過した。毎週、異国で過ごしている日々をメールマガジンとして記録していたので撮りためた写真がたくさんある。見返していると「まだ一年か」とも、「もう一年か」とも、どちらの気持ちも生まれてくる。
日本の地方都市に生まれ、中流家庭で育ってきた自分は往々にしてマジョリティとして過ごす時間が長かっただろう。そうした意識もろくにせぬまま成長してきていたわけだが、移住することで強制的にマイノリティに属することにもなった。それらをはじめに感じたのが社会的インフラへの接続の困難さで、初歩的なことから言えばゴミの捨て方もわからないのである。
台北はもちろん近代的な都市なので、飯を食い、必要最低限な日用品を得るのに困ることはない。しかし、それはどこまでいっても「他者との関わりを必須としない都市の生活レベルの話」に限るのであって、誰かの関係性に一歩でも踏み込むのであればまず言葉の壁は大きく立ちはだかる。さらに言えば、ビザがなければ携帯のキャリアを契約することもできないし、引っ越しをすればすぐに政府に新しい住処を知らせなければいけない。これまで当たり前に享受していた自らの生活が誰かの許しを得なければ成立しないという事実を突きつけられ、「疎外感」は一層その分厚さを増した。
こんな調子で「地域の一員になれないもどかしさ」を感じた時、自分がこれまでに描いてきた線と、その周縁にあったものがなんであったのかを考えてみたくなる。「こうした環境に身を置かなければ、できなかったのか」と思えば落ち込む部分がないわけではないが、事実そうであったのだから受け止めざるを得ない。今も昔もさまざまなリアリティを引き受けてきた市井の人々と、広がりを魅せる芸術祭が包括するものに目を向けながら。
OUT OF SIGHT!!! ー 編集長/堤大樹
■目次・仕様
「地棲族」としてもがきあらがう、台湾の地域国際芸術祭
文:栖来ひかり/イラスト:髙橋あゆみ
特集01:超広域芸術祭、ロマンチック台三線芸術祭とはなにか
ロマンチック台三線芸術祭への旅路 - その道は境界線で、あわい -
文:堤大樹/写真:岡安いつ美
アートキュレーター、エヴァ・リンからの誘い
文:堤大樹/写真:岡安いつ美
今を生きる客家と、その声
文:大城咲和/写真:堤大樹
発掘のデザインロードトリップ
台湾のクリエイティブチーム・bitoが手がける「アートフェスティバル」のデザインのつくり方
文/写真:岡安いつ美
出展アーティスト一問一答 - 土着的な歴史を探求する、リャン・ティンユーの場合 -
文:梁廷毓
出展アーティスト一問一答 - クィアな写真家、マンボー・キーの場合 -
文:登曼波
山を歩き、川をゆく 身体で識る、芸術祭 キュレーター、ゴン・ジョジュンの仕事
文:岩切澪/写真:courtesy of 龔卓軍
編集部メンバーが行ってみたい - 台湾芸術祭マップ -
文:大城咲和
芸術祭と、その手前にある無数の日常について - 新田幸生に聞く、台湾、舞台芸術の芽吹き -
文:堤大樹
特集02:馬祖国際芸術祭、物騒な歴史と5つの島
「予期されざる客」として、最前線の島に何を思う?
文:新原なりか/写真:岡安いつ美
この島は経過の中にある - 出展アーティスト・髙橋匡太に聞く馬祖国際芸術島の景色 -
文:堤大樹/写真:岡安いつ美・mito murakami
芸術祭はなにを生かすのか? - 台湾東部の海岸線、豊かなランドスケープを通じて -
文:林苡秀
草の根的活動と、その生計 - Node Creative、花蓮での願い -
文:羅健宏
移民、そして昨今の文化の形成について
文/写真:永岡 裕介
太台本屋 tai-tai booksが選ぶ! - 台湾の暮らしと、芸術にふれるための9冊 -
文:太台本屋 tai-tai books スタッフK
日本と台湾の田舎を行ったり来たりして謎の文化を育みたいのです - 私はこうして台湾に出会った 汽水空港・モリテツヤと台湾 -
文:モリテツヤ